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拳銃女王 act7 アトミックシティ 中篇 ① - bebe

2015/01/04 (Sun) 14:37:45

 更に抵抗を押し返しながら横浜市、金沢区に到達したS・S・Cの部隊、およそ七千名。
 横浜市南端の防衛を担う金沢警察署より数キロ離れたところで今夜は野営することとなった。
 陣地を張る数百メートル先に警察官と自衛隊員たちが土嚢を積み、こちらに睨みを効かしていた。今夜の互いの当番兵は眠れぬ夜になりそうだ。
 国道の両脇に並ぶ商店や住宅を、延々と続くかがり火が照らしていた。
 
 空から見下ろせば、さぞ盛大な光景に映るだろう。
 炎の光とそれを覆い尽くそうと迫る闇の中で動く妖狐たちの姿は、この世の光景とは思えない。
 夜は、妖狐に限らずかつて、闇に生きる魔の存在なら誰でも持て余していた妖力がにわかに高まる時間だ。
 その為、妖狐隊員たちの身体からは、不思議と熾火のような柔らかな黄色い光が発光し、道行く道を照らしていた。
 
 幻想的……?
 そう表現すればいいのだろうか、と雨子は閉店していた仏具屋のシャッターの隙間から眺めながら思った。
 二空輪と彼が率いる部隊に合流した雨子は、彼らと一緒に野営することとなった。他の隊は営業していない廃墟の店舗で夜露をやり過ごす準備をしていたのを見、二空輪たちもそれに倣った。
 雨子があの家にいた理由はさっき説明を終えたばかりだ。
 
 妖狐隊員たちは思い思いの格好で眠りについていた。何名かの隊員は薄黄色い妖力光を出しながら、薄眼で雨子を見張っているのは視線で分かる。
 二空輪の紹介で、彼らの前に出された雨子をあまり信用していないらしい。
 何故自分たちより先回りしていたか理由を二空輪に尋ねられ雨子は、まあ要するに犯罪者が遊んで暇してはいけない、少しでもリハビリがてら、無報酬でいいからこの戦いに民兵として参加させてほしかったと告げたのである。先回りしてあの家で休んでいたら、いきなり警察官たちが入りこんできて待ち伏せの準備を始めてしまった。機会を見て、抜け出そうとあそこに隠れていたというのが事の顛末であるとのことだ。
 報酬はいらないが、警察や自衛隊の官給品を戦利品として頂きたい。売ればかなりの金になる。死んでも文句はつけない、つけようがないから―
 
 二空輪は少しだけ迷ったが、最後は快く承諾した。正し、自分の傍らをトイレと清拭以外離れないこと。民間人を殺さないことを念を押し、雨子を隊列に入れることにしたのである。
 今回の作戦には人間の志願兵もかなりの人数が参加しているが、前線にはいない。後方支援とか救護兵として、戦闘が予想される地帯にはいなかった。雨子ひとりだけが人間の、S・S・C戦闘員として臨時に参加しているというわけだ。
 二空輪が言うなら、と若い隊員たちは渋々認めたようだったが、油断していなかった。
 国後雨子。かつて、ボスとコンビを組んで青春を不良として荒らし回った、拳銃の名手でもあり、強盗ギャングとしてS・S・C内では有名であった。
 
 一時期、自分たちが所属するS・S・Cに対しても強盗被害を与えたということも付け加えられ、雨子は隊員たちの評価としては悪評の方が高かったのである。
 そんな意味を含んだ嫌悪を知ってか知らずか、雨子はずけずけとこの先の予定のこととか、美幸はどうしているかを二空輪に馴れ馴れしく、ここに来るまで質問しまくっていた。
 ちなみに美幸なら横須賀市内の戦いの処理に、この進行部隊を後方から指揮しているとのことである。
「へえーっ、あの子、本当に偉くなったんだね」
 
「まだ実感が沸かねえか?」
「うん。昔、それらしい指導者っぽいところはあったけど、ま・さ・かね~」
「ハッハハハ」
 缶詰で遅い夕食を食べながら二空輪と隣で談話していると、ジェット機のエンジン音が再びした。
 
 日中、頭上を飛んで行った味方のジェット機の爆音である。
 雨子は桃の缶詰をひとしきり食べ終えてから、
「今空を飛んでるやつもS・S・Cのものなんだよね?」
 二空輪に尋ねた。

「ああ。海上自衛隊の格納庫に隠されていた最新鋭機らしい。実験機だってよお。全部で二機、バラした状態であったらしいぜ。多目的戦術機って今までにないタイプのジェット機のようだが、俺は飛行機のことはよく分からん。知ってるのは『神雷(じんらい)』という名前ぐらいと、それの性能をちょっと小耳に挟んだだけだ。ちなみに、あれに乗っているのは俺の友達だ」
「へぇーっ!」
「たぶんに高性能だが、扱いにくいらしいぜ。神雷のテストデータも記録に残されていたが、人間どもも動かすだけで四苦八苦していたシロモノだってよ。SSME(※Space Shuttle Main Engineの略。スペースシャトル用エンジン)の小型・改良した補助エンジンを積んでて、大気圏外まで飛んで行けるって話だ。ま、歩兵の俺たちにはあまり関係ねえがな」
 
「へぇーっ!」
「へぇーって、お前女のくせに飛行機が好きなのか?」
「いいや、二空輪さんに友達がいたことに驚いてるんだけど……」
「なぬ!?」
 
 そのやり取りに、場が和んだ。緊張して見張っていた隊員たちから微笑みに声が零れる。
 二空輪との良い意味での悪ふざけを目の当たりにし、何名かは僅かに雨子に気を許すことにした。
 積極的に、今度は隊員から雨子に会話が流れていく。
「花見真司総裁の、今より若い頃はどんな感じだったのですか?」

「総裁は素手で象を捻り殺したことがるというのは本当ですかっ?」
「夢羅蜘(むらくも)という鬼に変身できるらしいですが、自分はまだそのお姿を拝見したことがありません。雨子さんは見たことがありますか?」
「あの、総裁がヤクザの若頭をぶちのめして、反対に指を詰めさせたと言う噂を耳にしましたが、あれマジで?」
 投げかけられる質問―と言うか段々と美幸を称える武勇伝になってきている―に答える雨子を横目に、二空輪は明日も早いと寝袋に身体を収め、横たわった。

 人間と狐という隔たりがあるが、彼女らは同世代の若者である。自然に質問は日常会話へと弾んでいく。このままでは夜通しになる可能性があるが、あまり遅くなるといけないので、ほどほどのところで中断させる必要があった場合そうしようと二空輪は考えた。
―ああして朗らかに、内容はともかく、楽しそうに美幸のことを語る雨子は本当にただの二十代前半の女性らしい。
 拳銃女王ではなく、素の国後雨子なのだと正直、感心する。
(お前はそうして日常の世界で生きているのがお前らしいよ)
 
助けられた時、雨子が撃った武装警察官は重傷で、殺すのも弾の無駄と雨子は判断し、捕虜として後方に送るよう二空輪に頼んだ。
 命を助けてもらったのだから拒むわけにはいかず、二空輪と隊員は捕虜をとりあえず後方支援の人間たちの下に送るよう手配した。自分たちならその場で処刑するのだが、彼らなら人間同士、手厚く保護してくれるだろう。傷ついた他人を、敵であろうと命がけで助けるのは、日本人ならではの優しさだ。
 何故、雨子はそうするよう自分らに頼んだのか? 
 簡単だ。
 
 人殺しをいけないことだと、常識だという概念が根付いているからだ。
 自ら狂人を装っているが、心の底で反発する良心には勝てない。
 どうしてもおかしい人間でない限り、常識に捉われてしまう。
 雨子もそうだ。
 
(どうしてそんなに強気でいようとする? 愛されようとすれば、お前は普通に生きていけるのに)
 二空輪の思いとは裏腹に、雨子は隊員たちに、美幸が相手にストレートを放ったシーンをポーズつきで解説しているところだった。
 狐火が消え、夜のとばりが街を覆っていった。
 
 

拳銃女王 act7 アトミックシティ 中篇 ② - bebe

2015/01/04 (Sun) 14:46:23

 
 翌朝になって、前線に動きがあった。
 対峙していた警察と自衛隊の陣地が慌ただしい。
 S・S・Cが進撃してきた道から、重量のある物体がこちらに移動してきたからである。
 その正体は、戦車隊であった。

 朝陽を受けて現れたのは10(ひとまる)式戦車である。
 現実世界で2010年、陸上自衛隊に正式採用された最新鋭の戦車だ。
 妖狐たちは自衛隊から接収したばかりの戦車を前線に投入してきたのである。
 百二十ミリ滑空砲が早速、火を吹いた。
 
 S・S・Cのカラーであるホワイトに塗装し直した戦車群が車列を組んで、道路を二台で並び、走りながら砲を吐いてくる。
 自衛隊員が無反動砲で反撃し始めた。しかしその火力には圧倒的な差があった。
 土嚢や官を吹き飛ばしながら、10式戦車は陣地の境界線を踏み越えて、逃げる官に向けて更に攻撃を加えていく。
 午前七時十分。S・S・Cは大船への攻撃部隊が動くのに合わせ、金沢八景の部隊も同時刻に一斉進行を開始したのである。
 
 金沢区一帯の市街地制圧部隊と、京浜工業地帯にまたがる金沢八景沿岸部の工業地帯を制圧する部隊のふた手に分かれた。
 数両の戦車を先頭に、後から続く二空輪と雨子の部隊は工業地帯制圧部隊に回ることとなった。
 海沿いを二空輪と雨子たちは戦車の先導に従い、徐々に目的地へと近付いていく。
「頭を低く、腰を下げて素早く動け!」
 
 二空輪は後ろの雨子と隊員に向け、注意を呼び掛ける。
 警察と自衛隊の混成軍も決死の反撃をしてくる。
 雨子と合流する前、S・S・Cはトラップやスナイパーの攻撃で、二百余名が死傷する被害を出しているのだ。
「はい!」

 と雨子も隊員たちに合わせて返事をする。
 一対一の撃ちあいではないのだ。
これは紛れもない戦争である。
 戦争には初めて参加する。
 
 一夜の平穏が嘘となっている。
 銃声がひっきりなしだ。
 悲鳴や逃げ惑う住民の姿が戦車を通り過ぎる。
 逃げ遅れた官憲が膝ま突かされ、刀で首を斬られようとされている。
 
 ビルに立てこもり、銃撃してくる敵に戦車の砲がお見舞いされた。
 ずーんと腹に振動が響き、コンクリートの破片が下に舞い落ちる。
 本物の戦争であった。
 雨子は恐怖か歓喜か、どれとも似つかない感情に支配されていくのを感じた。
 
 そんな雨子を二空輪はちらりとだけ見た。
 怯えている?
 喜ぼうとしている?
 必死になるのは誰もがそうだが、雨子には迷いがある。
 
 無理だけはしないでもらいたいものである。
 しばらく進むと、小さな漁港があった。
 何隻か船がある。
 そのうちの一隻がいきなり出航した。
 
 中型の漁船だ。
『その船、止まれ!』
 戦車兵が戦車に取り付けたスピーカーで停船を求めるが、船は段々と加速していく。
『止まらなければ撃つ』
 
 しかし漁船はスピードを落とそうとしなかった。
 乗っているのは民間人ではない。警察か自衛隊の見張りの船だ。
「あれを、やれ!」
 二空輪は戦車の車体を手で叩き、隊員たちにも命令し、自分が先にトーラスで撃ち始める。
 
 見張りなら、工場群で待ち構えている敵に情報を知らせに走ったのだ。
 戦車があるということを伝えられると、少し厄介である。それに備えるからだ。
 戦車砲が水面に命中し、水柱を上げる。
 雨子も武装警察官がたっぷり遺棄していったサブマシンガンで、船体目がけて連射している。
 
 自分たちが使用している重い小銃より、比較的軽い銃を選んだのだ。
 入り江に出かかった船の後部に、戦車砲が命中した。
 エンジンに直撃だ。
 後ろに沈んでいく船の操縦室から、迷彩服の男たちが我先に海へ飛び込んでいく。
 
 やはりこちらが進行してきた時に本隊へ連絡を繋ぐ哨戒船だったのである。
 自衛官たちは対岸へ泳ぎ、逃げようとしている。
 無線連絡させる間を与えなかったので、何としてもこちらの部隊の規模がどれぐらいか、情報を走ってでも持ち帰るつもりだ。
 泳いでいた自衛官の動きが止まった。
 
 視線の先にある対岸に、二空輪たちとは別のS・S・Cの部隊が進軍しているのが見えたからだ。
 このまま鉢合わせになれば、岸に上がったところで問答無用の銃殺である。
 彼らは対岸とこちらを逡巡して、迷うことなくこちらに泳ぎ返してきた。
 生き延びる率で言えば、先に自分たちを認めた二空輪たちの方が可能性があるとでも思ったのだろうか。
 
 上がったところを二空輪たちが待ち構えていた。
 ずぶぬれの彼らは手を挙げ、
「投降する、撃たないでくれ」
 降伏してきた。全部で四人だ。
 
 すぐさま妖狐隊員が彼らの身体検査をする。むろん、小銃の銃口は自衛官たちにつきつけられてはいるが。
 隊員はそれぞれの自衛官からオートマチックの拳銃四丁に、二本のナイフ、それから通信機を回収せしめた。通信機のスイッチは入っており、連絡用のようである。
「へぇ、捕まるかもしれないのに、船の上で俺たちを待ち構えていたのか、ええ?」
 二空輪は手を挙げる自衛官たちの前を行ったり来たりしながら尋問する。
 
「これで―」
 二空輪は没収したばかりのオートマチックを掲げながら、
「これで何を撃つつもりだったんだ、え?」
 自衛官たちを恫喝する。
 
 彼らは目を伏せ、一言も声を発しようとしない。もう観念しているらしい。
「俺たちだろうが!」
 喋ろうとしない相手にしびれを切らして、二空輪は前にいた自衛官の腹を殴りつけた。
 ぐうっと唸って、殴られた自衛官の身体がくの字に折れ、後ろに倒れる。よほどの力だったのか、すぐに起き上がれず呻いている。
 
 味方には優しいが、敵には厳しい男である。
 そして二空輪は妖狐隊員たちに彼らを射殺するよう命じたのである。
「残念ながら、花見真司総裁の命令で原則的に捕虜は取るなと言われている。かわいそうだが、てめえらに食べさせてやるほど我々も食糧が豊富なわけじゃない。じわじわ飢え死にさせるよりかはいっそ―良心的とのお考えよ」
 突然の死刑宣告に、自衛官のひとりが慌てて訴えかける。
 
「そんな酷い判断があるか!? ジュネーブ条約を貴方は知らないのか“捕虜、並びに傷病者に対しては人道的な扱いをする必要がある”これは戦時国際法で決まっていることで―」
「ぎゃあぎゃあわめくんじゃねえ! 捕虜は取らない、お前らは即銃殺。人間同士の条約なら通用するが、あいにく俺たちは狐よ、妖怪よ。そんな決まり俺らには関係ない、それで決定だ―構ぇぇーい!」
 人間たち日本政府が、自分たちのような『人外』に対する隔離・排絶政策を取っていることは二空輪ら、妖狐だけではなく最も多くの人数がこの政策にあてはまるフィーンドをも激怒させている。
 千葉県北部と茨城県全域を勢力圏に置いているフィーンドギャングのひとつ、ヴァミト(反吐吐き)・フィーンドはこの政策の即時廃止を呼び掛けている。
 
 当然無視されているのだが、それで黙っているようなフィーンドではない。ヴァミト・フィーンドは日本政府が隔離政策を止めない限り、毎月数百人の人間を都内から誘拐してきて、身体の穴という穴に火薬を詰めて破裂させたり、肛門を切り開いて絶死させたりと拷問の数々を繰り返している。
 政府の弾圧が日本にいる以上住みにくいという憤りを生み、憤りからくる嘆きが、フィーンドの拷問や二空輪の決定に現れていると言われても別に不思議じゃない。
 誰かが悪政を正さない限り、この地獄は永遠に下々の間で続くのであった。
 うわーという絶叫が上がった。自衛官のひとりがいきなり逃げ出したのだ。そのまま、上がってきたばかりの海に飛び込み、沖を目指した。
 
 その自衛官は背中に弾を撃ち込まれ、水面に浮かんだ。
「手間かけさせやがる、さあ、さっさと始末をつけよう」
 二空輪の号令がかかり、残った三人に向け、一斉に小銃が構えられた。
 もう死を覚悟したのか、逃げ出そうとせず、ひとりからは念仏を唱える声がする。
 
「ちょっと待ってよ」
 と、銃殺を止める声が、公開処刑を見物よろしくしていた妖狐隊員たちの中から上がった。
 雨子だ。
「殺すのはちょっと待とうよ」

「何故だ」
 二空輪が立ちはだかる。
 やっぱりだ。
 やっぱりこの娘は人殺しが怖いのだ。
 
 それとも相手が人間だからか。
 何故止めるか、怒りだすのは手っ取り早いが、二空輪は理由を尋ねた、
「あのさ、警察はあんたたちが大軍で進軍してくるのに、薄い守りを何重かにして国道の各地点に置いていたって言ってたじゃないか。守るというより時間稼ぎをしているような配置だったんでしょ? だったら、そのワケをその人たちから訊いてからでも遅くはないんじゃないの?」
 国後雨子はそう告げると、二空輪の回答を待った。
 
 言われてみればその通りである。
 あの配置の仕方は明らかに不自然で、手抜きと言われても仕方ないほどの人員の少なさであった。
 つい戦いに熱中すると、そういう肝心なところがおろそかになってしまう。
 二空輪、百八十五歳。人間にあてはめるならようやく三十代前半という年齢だが、早くも脳が腐りだしてきたらしい。
 
 一旦落ち着きを取り戻すように深呼吸した二空輪は、とりあえず銃を下すよう命令した。
 二空輪に意見した雨子を自衛官たちは、人間だがS・S・C内において妖狐の戦闘員に意見できるとは、よほど地位が高いに違いないと勘違いし、命拾いしたことを雨子に感謝していた。
「自分たちの知りうる限りのことなら、何でも話します」
「ありがとうございます」
 
 最初に逃げようとした自衛官は気の毒だが、助けた命だ、二空輪は捕虜となった彼らを伴うと、近くの公園へと連行し、再度尋問することとしたのである。
 国後雨子。人を殺せないが、人を活(い)かすことには長けているのかもしれない。
 

拳銃女王 act7 アトミックシティ 中篇 ③ - bebe

2015/01/04 (Sun) 14:57:02




 金沢八景にある野島公園は京急金沢八景駅からシーサイドラインに乗りついで、約十分の場所にある大きな海の公園である。
 その管理事務所で二空輪と雨子は自衛官たちを尋問している。外にいる若い隊員たちは、雨子の采配にかなり関心したようで、余計な口を挟むかもしれないと、彼らは外で警備をすることにしてから数十分が経過しようとしていた。
 二空輪と雨子は重大情報を彼らから入手していた。
 とんでもない事実であった。
 
「原子爆弾が区役所の地下に仕掛けられている!?」
 雨子がびっくりして大きな声を上げた。
 二空輪たちは手足を縛られずに神妙にしている自衛官たちに身を乗り出して、
「本当だろうな?」
 
 と再度問い詰めた。
 大学をおととし卒業したばかりという自衛官は、取り乱さず落ち着いて頷いて見せた。
「ええ。貴方たちが昨年武装蜂起の折、横須賀にあった核燃料棒製造施設を占領したのは周知の通りでしょう? あの施設にはしかし目的の核の原料は無かったはず。実は、原料であるプルトニウムは襲撃前に後方に移送してあって、我が方の化学部隊が広島に落とされた『リトルボーイ』を基にいくつか作ったのですよ。最悪の事態はこれを爆破させ、貴方たちもろとも街を焦土化させるために」
 何が何でも犯罪集団に屈しない、日本政府の頑固なまでの意地がみて取れるような無茶な作戦計画に、二空輪は愕然とした。
 
警察が薄い防衛線をひいていたのは、安全のため解体状態にあった原子爆弾を慎重に組み上げ、区役所に運んでからセットするための、やはり時間稼ぎであったのだ。
 非核三原則を破ってまで守りたいのは、日本国というそのものに対する意地だけで、ここに住む人たちのことなど全く思考に入れていないようであった。
 当然ながら、この原爆が爆発すれば現在金沢区の市街地に侵入したS・S・Cは全滅する。しかしそれは住民を巻き添えにしてでの話だ。
 二空輪はさらに訊いた。
「それはいくつ製造された?」
 
「全部で五個です。そのうちの一発が区役所の地下二階、資料保管庫にあるのです」
「残りは?」
「残りは噂では全て関西方面に送られたようです。マスターズ・アーミーの本拠地をそれで攻撃して形勢逆転を図ろうとするつもりらしいですが、私は整備畠出身なので、あまり詳しくは……」
 人も物資も無い中、確かに核ならば大部隊を一挙にせん滅できるし、爆発の後に核はあと、どれだけ所有しているか? という疑心暗鬼から精神的なダメージも大きい。
 
 形勢逆転にはもってこいだろう。
 実際に爆発したら、広島に投下された方の原爆を参考にするなら、爆心地から二キロ圏内は完全に消滅する。かなりの妖狐隊員が犠牲になるだろうし、建物や市民の被害はどれだけになるのか。
 二次被害の放射能被曝で更なる死者が出るだろう。
 何としても食い止めなければならない。
 
「間違いなく爆弾はひとつだけだな? 区役所の地下二階の資料保管庫にある。確かだな?」
「はい、確かです。何を隠しましょう、私はセットの手伝いを現場でしたのですから」
 告白した自衛官の顔が少し青白くなったのが見て取れた。
 この告白は原子爆弾が確実にあるという事実を告げるだけではなく、その配備に手を貸したという自白にもつながるから、これで殺されても仕方ないという思いが出ていた。
 
 二空輪は安心させるように、
「よく証言してくれた。お陰で我々への被害を止められるかもしれない。お前を入れた三人、命を助けよう。そしてこれはお前らさえよければだが、どうだ、俺たちの仲間にならねえか? 自衛隊としての腕を我らの中で活かしてもらえれば」
 青白かった顔がぱっとこちらを向いた。
 思いもがけない提案だった。

「命を助けていただいたばかりか腕を活かさないかと……自分にとっての再起のチャンス、どうやって断ることが出来るんでしょうか。ありがとうございます、今日から私たちはS・S・Cのために骨身は惜しみません」
「整備畠出身と言ってたな。おおかた人手不足であんな所にいたのだろう。本当の勤め場所はどこか、あと君の名前も教えてくれないか?」
「自分は秋山です、秋山大樹(あきやまだいき)と言います。元は航空自衛隊で機体の整備をしていました。親子四代、軍用機の整備に携わる仕事をしています。まぁ別に襲名というわけではありませんがね。自分の曾祖父がラバウルで整備兵をしていたせいでしょう。父にもひ孫の私にもその癖が移ってしまったんでしょうね。ちなみに彼らも元は整備兵ですよ」
 
 自衛隊員の秋山は、はにかみながら後ろのふたりを振り返った。
 元整備兵なら、最新鋭の戦闘機を扱い慣れず泣いていたあいつのところに行けば役立てるな―
 二空輪は頭の中で秋山たちの再就職先を浮かべ、ぱんと膝を叩いた。昨日のジェット機のことを思い出していた。
「この問題は俺たちが片付ける。君たちの処遇は、俺が信頼のできる者たちに任せる。途中で殺されないようにするためにな」
 
「はい、重ねがさねありがとうございます」
「横須賀についてからは、追って指示するから。君たちに相応しい職場があるんでね」
 そう言うと二空輪と雨子は外に出た。警備をしていた隊員に秋山たちを丁重に後送するよう頼むと、また兵士の顔に戻った。
「あまり時間はねえな」
 
「そうだね」
 雨子も事の重大さを認識したようだった。
 二空輪はスマホを取りだすと、どこかにかけ始めた。
「誰に電話する?」
 
「花見総裁にご連絡する」
「え!? 美幸に。そしたら私がかける、かける」
 そう言うと、雨子はコール音のするスマホを二空輪からひったくり、耳に当てた。
 あの主従の誓い以来、二空輪と美幸は互いにホットラインを敷いたとのことだ。
 
 ややあって、美幸が出た。
『二空輪か。どうした、作戦行動中じゃないのか』
「ブーッ! 残念、あたしだよ」
『二空輪の携帯から雨ちゃんの声がする……気のせいかな』
「気のせいじゃないよ。正真正銘私だよ」
 
 とりとめのない挨拶をしてから、雨子はこれまでの経緯を簡潔に美幸に話した。
「取れたてほやほやの情報だよ。てか、このまま放っておいたら私まで死んじゃうよ」
『うーん、原爆かあ』
 美幸は悩んでいるようだった。
 
 急いで退却してもそれを察知した官が原爆を爆破させるかもしれない。
 かと言って、この事実を布告したとして大騒ぎになって、大軍で区役所に押し掛けたら起爆されて終わりだ。
『……今から二空輪の隊と雨ちゃんだけに秘密指令を与える』
 電話の向こうで、美幸が静かに言った。
 
『現在、金沢区を制圧中の部隊は金沢警察署周辺にて展開、戦闘中だ。戦略目標に警察署の隣にある区役所は入っていない。ふたりとその一隊にはこれから一時間以内に区役所に潜入して、原子爆弾の爆破を抑えてもらいたい、できるか?』
 何と美幸は雨子たちに原爆爆破の阻止を命じてきたのである。
 他の隊の援護をよこすことはできない。知ればパニックになるのは必至で、それだけで危険になる。
 
 重大任務であった。
 雨子は美幸の性格をよく熟知しているから、必ずこう言うという確信があったので、大事なことを付け加えた。
「それに、私にいくら払える?」
「雨子、貴様ッ」
 
 二空輪が激怒しかけた。こういう時に金の無心など、モラルが欠如しているにも程があるというものだ。
 しかし美幸は動じなかった。美幸は雨子の性格をよく熟知しているから、この命令に対し必ずこう言うだろうという確信があった。
 美幸はふっふっふと笑った。
『三億』
 
「やったね美幸ちゃん、口座は後で教えるから♪」
『それじゃ、よろしく』
「うん、今度、久しぶりに飲みにでも行こうよ」
 そう言うと電話を切った。
 
 すぐに真顔に雨子はなる。命がけの仕事である―
 死ぬかもしれないので、三億ぐらい貰わなければ命を張る価値は無い。
 嫌ならさっさと雨子だけ逃げればいいのだ。一時間もあれば、車で横須賀に帰れるのだから。
 二空輪はスマホを返してもらいながら、ため息をついた。
 
「何ちゅうがめつさじゃあ。俺の仲間が全員蒸発して死ぬかもしれないという時によう」
「お金を貰う以上、本気でやるさ。三億だよ、三億! 強盗するよりよっぽどいいし、二空輪さんたちだって助かるし、一石二鳥じゃん!?」
「はぁ。日本の若者は、昔はこうじゃなかったんだがなァ」
 また深いため息が出る。
 
 危険の価値を金で換算する。
 何とも現実的だ。
 見合ってるからいいと、雨子は恥じらわない。
 二空輪はこれから先の未来を想像して頭が痛くなってきた。それも原爆を解除できればの想像だが。
 
 兎に角、総裁である美幸の直接の上意を承ったのだ。隊をまとめ、二空輪は工業団地制圧部隊の指揮官に、市街地の部隊から急命を受けたので、一旦離れるの旨を伝えに若い隊員を走らせた。
 味方にも敵にも秘密の任務。これまでで最も困難な作戦になりそうだ。
 雨子もただくっついて行くばかりではない。
 スマホのアプリを開き、地図のページをアクセスし、件の場所を検索し出した。
 
「あ、何だ、ここから近いじゃん」
「そうみたいだな。しかし、激戦の中だぜ」
 地図によれば、ここ海の公園からゆっくり歩いても七~八分のところに金沢区役所はあった。本当に警察署の隣だ。まあ区役所と警察署が近くにあるというのは、大体どこの街も似たり寄ったりだが。
「じゃ、行こうよ」
 
 雨子、サブマシンガンの先に、警察官が個人の品とした所持していたサプレッサー(消音器)を取り付け、弾を交換した。
 十二名からなる―住宅街の戦闘で負傷した一名を除く―二空輪の隊は、二空輪からこれから先の任務の主旨について説明を受けつつ整列を終えていた。誰も、臆したりはしていないようだ。
「分隊、前ェェ~い進めッ。イチ、ニ! イチ、ニ!」
 行進し出した二空輪隊は、大軍を背後に残し住宅街を通って市街地へ進み始めた。
 
 ここと市街地は目と鼻の先である。銃声と爆発音が空にある厚い雲から跳ね返って地上に降り注いでいた。
 官にまだ原爆を作動させる気はないようだ。守り通すという意志が、或いは少なからず働いているかもしれない。できれば原爆だけはと思いとどまってくれれば、上官に訴えてでもそのとどまった人間と関係者に恩赦を与えて救ってやろうと二空輪は思う。
 おう、と二空輪は思った。
 雨子の、本当は優しくて素直な雨子の性格が自分にも移ってしまったのだと。
 
(素直じゃないだけなんだよな。お前はよう)
 二空輪はスマホと道を交互に見やる雨子に笑みをかけた。
 厚い雲は色を濃くし出した。
 瞬く間に激しい雨粒が大地を濡らしていく。
 
 その雨はただ、戦によって流れた血を洗い流すだけのもので、どのような結果で決着がついても、晴れた日にまた血を流す舞台を用意させるための、お膳立ての雨なのである。
 
 

拳銃女王 act7 アトミックシティ 中篇 ④ - bebe

2015/01/04 (Sun) 15:23:05

 
 
 
 午後十五時四分。金沢区金沢警察署前。
 横転したパトカーがまた一台炎上しだした。降り出した雨でも簡単に消えそうもない、強い燃え方だ。
 その際、サイレンのスイッチが入ってしまったようで、サイレンが鳴り始める。
 それは、一般人がたまに耳にする『ウ~~ウ~!』というあのサイレンではなく、音の高い楽器をしっちゃかめっちゃかに叩き、鳴らすかのように、狂ったような音を吐きだしていた。
 
 ピ~~~~ウィーピ~ピュルピュル!
 活字で表すならこんな音になるのだろうか。
 市街地へ突入してきたS・S・Cを官は迎え撃っていた。
 キャタピラが外れ、座礁した船のように路肩に突っ込んでいる10式戦車が燃えている。
 
 自衛隊が道路に埋設した地雷に食われたのだ。
 戦車が倒されるのを見て安堵するのもつかの間で、今度はS・S・Cが自前で作った装甲トラックが水しぶきを上げて前面に出てくる。
 そのままスピードを上げてこちらに突っ込んでくるようだった。
 単発ライフルと豆鉄砲のようなニューナンブではその巨体は食い止められない。
 
 運転手が脱出していた。
 脱出際、その妖狐隊員は“くたばりな”と呟いたようだった。
 トラックが土嚢を積み上げた陣地に突っ込むと、巨大な爆発と延焼を辺りにまき散らした。
 爆弾コンテナを搭載した自爆トラックだ。中東のテロリストがよく使う手口で、正し運転手を犠牲にしてまでの自爆ではない。脱出した運転手が走り去っていくのを恨みながら、爆風による破片を受けた警察官は死んでいった。
 
 工業団地制圧部隊とは裏腹に、市街地では激戦が繰り広げられていた。
 官も負けてはいなかった。
 工事用のダイナマイトを投げつけられ、それによる被害がかなり出ている。
 威力は手投げ弾に劣るが、爆発物は爆発物である。
 
 隊員が二~三匹、固まって隠れているところへ、ダイナマイトが飛び込み爆発、身体が四散した。
 相変わらずスナイパーによる狙撃も地味に出血を強いられる。
 頭に弾を受け、ぱっと赤い死に花が咲くのは、大体歩兵をまとめ上げる指揮官からだった。
 
 余った弾を戦闘員がもらう。
 市街地制圧は予想を越えた困難に直面していた。
 官ばかりではなく、白い和服を基調とした妖狐隊員たちの身体が茂みに重なっていく。
 避難の際、親とはぐれたのだろうか、幼い子供が地べたに座り込み泣いていた。
 
 民間人を直接撃ったりしないが、興味本位に駆られスマホで戦闘を撮影しようとした民間人が、流れ弾に当たって死んでしまうのまでに気を使えない。
 そういう男や女の射殺体もあちこちにあった。雨がそれらを濡らしていく―本人の責任だ。
柿畑国晴(かきばたくにはる)はそう自分に言い聞かせ、伏せている車の陰でスコープをライフルへと取り付けた。
 国晴は全身黒ずくめのタイツ状の衣服に、短い産毛のような髪の毛からは猫のような耳を生やしていた。背中には羽根がある。それら人間にはついていない器官が動いている。
 
 フィーンドだった。
 あのヘルメスと同じ種族である。国晴は花見真司美幸の提唱する寛容政策により受け入れられたフィーンドのひとりである。所属はS・S・C第三警務隊、第六警務班の班長であった。
 フィーンドや人間はあまり前線に出させてもらえず、もっぱら後方支援に従事しているが、国晴が所属する第三警務隊にもこの戦いへの出撃命令が出された。
 妖狐隊員と比べ何かと優劣をつけられるフィーンドや人間だが、国晴の上司、つまり第三警務隊隊長は作戦前、わざわざ国晴の下へ赴き、作戦に参加するか、しないかを決めるよう言われた。
 
 強制的に参加しろというなら分かるが、するかしないかというのは、それは強制ではなく自分の意志で行っても行かなくてもいいということになる。
 十七歳の国晴は即座に「行きます!」と答えた。
 手柄を上げればS・S・C内で地位を高められる。ひいては、他のフィーンド隊員たちの処遇も改善されるかもしれないと願ったからである。
 行くと答えた国晴に隊長は「無理をするな」と言ってくれた。
 
「若い君にこんなことを選択させるとは、私も姑息になったものだ」とも付けて言ってくれた。
 国晴も、元はただの人間である。他のフィーンドのように一度事故で死に、生き返った身だ。単にそれで不気味だと、人間にも他の人外からも厄介者扱いされることが多い。
 国晴の隊長は妖狐だが、よくよく振り返ってみれば、自分をかばってくれるような言動をよく耳にし、行動してくれる気がする。あくまで実力で判断するのが評判な隊長だ。
 徳の高い狐(ひと)だと思った。その徳に答えねばならない。さらに他のフィーンド隊員の希望にならなくてはいけない。
 
 フィーンドからしてみれば空気を吸うに等しい麻薬の誘惑はとうに断ち切っている。でも興奮する気持ちがあった。それは薬物によるものではない。
 情熱だ。自分という身体から発せられる熱であった。
 頭を数センチもあげれば、NTTの電波塔にいる狙撃兵の餌食になる。
 妖狐隊員が狙撃やダイナマイトの攻撃をものともせず、果敢に突撃していく姿を国晴はやり過ごす。
 
(あそこから、ここまで、ひゃく、にひゃく、さんびゃく、よんひゃく……約四百メートルとちょっと)
 ライフルのスコープを調整しにかかった。
 本来狙撃とは、独りで行うものではなく、スポッターと呼ばれるスナイパーより広く視野を持つ補助者がいて初めて成功出来うる行いで、現実世界ではふたりひと組のペアを組む。映画や小説でスナイパーが夜の屋上に独りだけ、心臓の鼓動を聞きつつクールに目標に狙いを定め撃つ、ということは演出上カッコいいからという理由なのであり、嘘でもある。
 ほとんど目立つことなく、影のように任務を遂行しなければならないという部分だけは本物だ。
 
 今はスポッターはいなければ、影のようにもなれていない。ある意味日陰の存在ではあるが―
 正面の敵には身を出せば丸見えだし、電波塔の狙撃者がこちらに気付いていたらそれまでである。
 でも―
 片づけなければ、さらに味方に被害は増えるだろう。
 それを行えるのは、どうやら自分だけだ。
 
 国晴はなるべく、正面の敵に自分を晒さないよう、車に散らばっていた破片、それからこちらに千切れてきた誰かの手足を置いて身を隠し、ゆっくりと、ライフルを構えスコープに右目をやった。
 リー・エンフィールド小銃。
 イギリス製の、ボルトアクションライフルである。第一次大戦と第二次大戦のイギリス兵の主力銃のひとつで、原型は何と1902年に設計された古い銃である。
 むろん、国晴のエンフィールドにサビがついていたり、ストックが腐っているということはない。
 
 弾は現代で用いられているNATO弾を使用している。原型は古くても、狙撃使用に設計し直された比較的新型のエンフィールドなので、時代の隔たりは四十年ぐらいの間があるだけだ。
 スコープから電波塔を見る。基礎に近い部分から上へとやると、そこの足場に狙撃兵はいた。服装から機動隊でも武装警察官でもなくSAT(※警察特殊急襲部隊)の隊員であった。
 経験も訓練も国晴以上に積んでいそうな、もともと険しそうな表情の男がさらに険しい顔つきで弾を排出し、次の狙いを定めているところをスコープで捕えた。
 国晴を全く発見しておらず、見当違いの方に撃っているような姿が滑稽に思えて、つい吹いてしまった。
 
(もうお前は死んだよ……)
 日ごろの恨みが出る。
 警察官に警棒で打ちすえられ、公衆の面前で唾を吐きかけられ蹴りを受けたことは忘れない―
 当の警棒で打ちすえた本人たちには横須賀での掃討戦で探り当て、今度は逆に妖狐隊員が見る中、銃で打ちすえ、狐たちの面前で唾を吐きかけ、弾が勿体ないからフィーンド仲間とリンチして殺害し恨みをすすいだが、国晴の戦いは終わらなかった。スコープのレンズに水滴を作る雨を冷たく感じる。
 
(公職を乱用するお前らは苦しむのがお似合い。どうしてこんな時だからこそ助けようとせず弱者を苛めた? 苦しめ、苦しめ!)
 国晴は狙いをつけたSAT隊員が即死しないよう、胴体の真ん中よりいくらか下を狙っていた。そこには肝臓や胃があるからだ。
 即死はせず、そこから肩の背部にかけて地獄の苦しみが痛みを通り越して襲いくる。
 そういう箇所だ。

 SAT隊員は弾込めをし出した。隙だらけだ。
 スコープ内の十字は、くっきりとSAT隊員の胴体の真ん中に定まっていた。
 
 トンッ
 
 という乾いた銃声がエンフィールドからした。
 国晴、素早くボルトアクションを行う。
 弾は狙い通りの場所に当たった。
 国晴のスコープの中で、男は一瞬何が起きたか分からないように首を振りまわすが、すぐせり上がってくる己の血に首から下は染まり、辺り構わず吐き出る血をぶちまけた。
 
 倒れこみ、悶え、苦しんでいた。
 激痛が治まらないのだろう。
 自分に合わない酒を飲んだ際、数分後、胃から肩にかけて痛みだしてくるあの痛みより数倍の激痛なのである。
 
 ザマ、みろ。
 ぺっと国晴はあの時のように唾を吐いた。
 あの痛みは数十分、苦しむことになる。その間に、社会的弱者にしたことを一瞬でも反省してから死んでくれと国晴は思った。
 
 次の狙撃兵を倒すべく、国晴は移動し始める。
 市街地を海側に向かい、走った。
 国晴が班長を務める班の隊員と合流する必要もある。
 塀沿いになって歩みだした。角を曲がった。
 
 その後ろを二空輪と雨子たちが忍び足で通っていくのに国晴は気が付かないでいた。
 
 
 

あとがき - bebe

2015/01/04 (Sun) 15:27:47

新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
ストック分を出しました。あちこち修正。おかしい部分がありましたらご指摘下さい。
今の日本、官憲に逆らうものなら幕末の志士さんたちのようにはいきません。
でもこの物語のように身体能力の高い魔物が銃や刀を手にし、現用兵器を用いて反抗したならば……?
というコンセプトもひとつにあります。
雨子は確か過去作でも人を殺したことのない子だったはずですが…記憶違いでしたら申し訳ありません。

Re: 拳銃女王 act7 アトミックシティ 中篇 ① - いけやん

2015/01/10 (Sat) 16:25:45

どうもです!
少し時間がかかりましたが読み終わりました(^^)
本格的な戦闘ですねぇ。武器・兵器の描写は詳しく、よく調べられていますね。状況が分かりやすいです。

しっかし、劣勢に陥った政府の切り札が原爆とは…なんとも恐ろしいもの(冷汗)
雨子達はこの暴挙を止められるでしょうか。続きも気長に待っています。

Re: 拳銃女王 act7 アトミックシティ 中篇 ① - bebe

2015/01/15 (Thu) 08:12:43

いけやん様。ありがとうございます。ちょっと話数を欲張り過ぎる癖が最近ありますね(汗)
休みの日はせっせと借りてきた本で色々と調べてます。やはり『兵器』の力の前には自衛隊も妖狐も一筋縄ではいかないでしょうね。
本当にこんな事態になったら、恐らく原爆以上のことを行ったりするかも―そんな考えがあります。
また近いうちに投稿します。ありがとうございました^^

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