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拳銃女王 act6 アトミックシティ 前篇 ① - bebe

2014/11/23 (Sun) 13:03:57

 
 
 
 
 国道十六号線を進撃するS・S・Cの部隊は散発的な抵抗を排除しつつ、目指す金沢八景沿岸に広がる工業地帯へ向けて行進を続けていた。
 昨日の第二次攻勢から明けて次の日。夜間降った雨のせいで、今朝の外は濃い霧に包まれている。気温はかなり下がり、いよいよ秋本番といった様相を呈してきた。今年の夏は酷暑に見舞われたが、それからの温度差は部隊の若い隊員に少しだけ試練を与えたようで、あちこちからくしゃみをする声が聞こえてくる。
 小野萩二空輪(おのはぎにくうりん)はくしゃみがする方へ、狐面を被った頭を向けた。顔の下半分だけを覆う狐面が突如向けられ、若い妖狐隊員はたじろいた。
 顔の下はしとやかそうな狐の口を象った狐面に対し、二空輪の目は恐ろしくぎらぎらしている。
 
「すいません」
 睨まれた若い妖狐隊員がこうべを垂れ下げ恐縮した。
「へっ、体調管理は、まっ、難しいってなもんでなあ」
 辟易する若い隊員に二空輪は口の端を頬へ寄せて見せた。
 
 彼ら若妖狐にとって、本格的な初陣である。
 戦死者もいくらか出るであろう。
 二空輪自身も同じ運命を背負っている。
 ここまで、今日まで戦に次ぐ戦を生き延びてきたが、この先ほんの一時間後に待ち受ける運命は死であるのかもしれない。
 
 若い隊員たちと二空輪の階級にそれほど違いは無い。同じ一兵卒である。だが二空輪には若者にはあり得ない、戦争の経験がかなりあった。
 小野萩二空輪は、今年で百八十五歳になる。長き狐生(じんせい)であった。
 出羽(でわ)の国(※現在の秋田県と山形県を含む地域)に生まれ、妖狐としての使命『人間界に混乱をもたらす』という行いを、人間の戦争に参加することによって果たしてきた。
 幕末から明治に到るまでの国内戦争が二空輪の初めての戦争体験として、今でも鮮明に記憶に残っている。佐幕派として、明治政府の官軍と戦ったのだ。
 
 欧州に渡り、第一次大戦をイギリスの植民地兵としてドイツを中心とした同盟軍とも戦った。最初の戦争には負けたが、これは勝ち戦だった。
 そして、大東亜戦争。二空輪は北支戦線(※ほくしせんせん。中国戦線の意)にて人の海のごとく押し寄せる中国兵を連日連夜相手に戦った。
 これまでの戦に比べ、地獄を味わった。
 だが、ひとりの中国兵を三八式歩兵銃の銃剣で突き刺すたびに、射精にも似た歓喜が湧きあがるのを覚えた。
 
 浴びせられる返り血。喜ぶ自分。中国兵の悲鳴、仲間の叫び声。
 十万人対こちらの兵力は百人だけという絶望的な状況を終戦間際に体験したときの、あの獅子奮迅の退却劇は忘れない。この時は恐怖した。
 昼も夜も問わず襲い来るのは中国軍ばかりではない。満州国から南下してくる現地住民のゲリラ隊にも散々痛めつけられた。
 不覚を食らい、重傷を負いながら何とか日本に辿り着いた。
 
 二空輪は初めて戦争の恐怖を身体で味わったのである。
 そして短い平和となった日本で暮らし、数年前の世界恐慌に端を発した世界規模での経済危機にフィーンドの出現が重なり、日本を含め世界全体が戦国時代となった現在、二空輪の戦いの高揚感が再び鎌首を上げた。
 ついこの間、古い拳銃を使う娘―国後雨子と決闘したばかりだ。あの時、雨子に撃たれた二発の傷はもう塞がりかけているが、ただの撃たれた箇所が痛むような傷ではなかった。
 それは、二空輪の心につけられた傷である。
 
 女に撃たれて死にかけたという思いが二空輪にはあった。だが雨子自身に恨みを感じてはいない。
 彼女は、雨子はこれから伸びていく存在であると、二空輪はあの華奢で本当は可愛いところもある雨子を自分の中で描く。
 そう、彼女はまだ未熟である。そして人を殺せない。殺したことが無いであろう―
 あれにボス、花見真司美幸がかつて背中を預けていたとは、想像するのに難しいところがある。
 
 国後雨子は怖がりであることを二空輪は見抜いていた。それは彼女が心が優しいということであると、鏡写しの性格であるということを示しているのだ。
 こんな時勢でなければ、俺が嫁にしてやってもいいぐらいだ。二空輪はまんざら冗談でもないように胸の中で笑う。
 二空輪がいる隊員たちの頭上を、ジェットエンジンの轟音が通った。
 それほど高くない上空を、一機のジェット機が二空輪たちが向かう方角に飛行していく。
 
 クローム張りの塗装に、亀の甲羅を縦に伸ばしたような流線型のフォルムが特徴な機体である。
「おっ、ありゃあ確か我が方の戦闘機か?」
「金沢に集結しているサツにミサイルでもぶち込みに行くんだな」
「あれは戦闘機じゃなくて次世代最新鋭『多目的戦術機』って言うんだろ? 戦闘、偵察、爆撃、電子妨害何でもござれのさ。自衛隊が密かに欧米と合同開発していたとかいう……」
 
 若い隊員たちの会話を二空輪は狐耳で聞いていて、そしてほくそ笑んだ。
 あのジェット機に乗っているパイロットを二空輪はようく知っている。
 元日本海軍の戦闘機乗りだ。
 そしてあの機体は、昨年の第一次攻勢の折、海上自衛隊基地から接収した開発中のふたり乗りの実験機であるということぐらいまでは周知している。
 
 あの機体を操るパイロットと一杯飲みに行った際、二空輪は彼から直接話をしてくれる機会を得た。
(こちとら元々レシプロ機乗りだ。今時の飛行機はアフターバーナーだかミサイルだか、何が何だか複雑で分からねえ。動かすだけで精いっぱい! 訓練だけで実戦未経験で終わった俺の腕じゃどうしようもない。俺がいたラバウル航空隊の先輩たちだったら、或いは可能性はあるかもしれないが、もうほとんど老人か亡くなっておられるかどちらかだよ。あの機体の性能は間違いなく世界一だが、扱いが難しすぎて。俺もとんだ古狐なんだなあ。頭も固いせいもあるのさ)
 ようするに時代についていけないという、元海軍飛行機乗りの妖狐の話というか嘆きを、二空輪は黙って耳にしていた。
 陸で死線をさ迷っていた二空輪に、飛行機乗りの苦しさ、難しさを訴えられても同情するしかなかったのである。
 
 さっきも若い隊員が言っていたが、あのジェット機はこれから先にいる前線の敵か施設を攻撃しに出撃したのだろう。だが一瞬見た機体の動きに鈍さを感じたのは気のせいだろうか?
 乗っていた二空輪の知り合いの彼は、けして飛行機を操縦する技量が低いはずではないのだが、時代の隔たりというか、レシプロ機とジェット機では感覚が異なるのだろう。
 ましてや操縦のためのマニュアル本と、一部の投降した自衛隊の技術者しかいない環境では、あの最新鋭機の性能が最大にまで引き出せないのではないか。
 S・S・Cが現在編成を進めている航空戦力はまだまだ時間と金がかかるとのことだった。
 
 ガンバレ! と二空輪は心でエールを送った。
 お互い帰ってこれたら、とりあえずまた飲みに行こうと二空輪は思った。
 S・S・Cの部隊は途中にあった日産自動車の追浜工場に小隊を送り込み、接収させてからさらに進む。
 品物の生産に必要な原料は現在、アメリカの『鋼鉄の獅子』が惜しみなく送ってきてくれるが、材料を基に作る工場がS・S・Cには不足していた。支配下にある市内の工場だけでは明らかに足りなく、二四時間フル稼働の状態だ。
 
 二空輪は部隊の中ほどを行進していた。不意に、先の方から風に乗って怒鳴り声が響いてきた。
 何事かと思う暇もなく、伝令がこちらに走ってくる。
「敵襲、敵襲!」
 そう叫びながら伝令は後続の隊員たちにも告げるべく、横を通り過ぎてゆく。
 
 二空輪が列を飛び出し、伝令が来た方向へ走った。若い隊員が何名か続く。二空輪を敬う、妖孤隊員たちである。
 しばらく走ると、部隊の先頭を担っていた隊員たちが、廃棄車両や建物の塀に散らばって隠れている光景が映った。
 さらにその先から、機関銃の射撃音がする。
 
 先頭部隊員が隠れている先にあるトンネルの上の山にどうやら敵がいて、いきなり銃撃してきたようだ。
 さらにトンネルの左右に立ち並ぶ住宅街からライフルで狙撃もしているらしい。
 二空輪は合流するまでに、撃たれて倒れた妖狐隊員を七~八匹やり過ごした。
 
「くそう、警察と自衛隊のやつら、薄く防衛線を張ってやがる。どうせなら全員でかかってくれりゃ、手間もはぶけるのによう」
 適当な遮蔽物でしゃがみこんだ二空輪は悪態を言いついでに唾を吐く。若妖狐隊員たちは小銃を握り直したり、差し込まれていたマガジンを再度装てんする。
「どういうつもりなんでしょうか? 自分には相手の意図が測りかねません」
 隊員のひとりが二空輪に言った。
 
 二空輪は宙を逡巡してその言葉の意味を探った。言われたとおりだ。二空輪には、相手に何かしらの作戦があるように思える。あえて言うなら、薄い防衛線でこちらを足止めし、自分たちはその何かをするため、時間を稼いでいるように思う。
(そんなことをしてどうする? 俺たちを一気に壊滅させる秘密兵器でもあるってえのか)
 自分たち狐は追い詰められても、最後まで善後策をあきらめない。被害を最小限に、だが迅速に事態を打開する策を、粘り強く思案し、狡猾にそれを実行に移す。
 だが人間はそうではない。後がないと分かれば、味方を巻き添えにしてでも、とにかく事態を強引に解決しようとするのだ。これまでの戦いでもそうであった。
 卑劣な人間め、小さい脳のくせに生意気に奇策を用意しているとでもいうのか。
 
 だがそうはさせないためにも、兎に角この敵陣地を突破する必要があった。
 二空輪はいち戦闘員であるが、実戦経験があるため、自然に同階級の者たちを率いる立場であることは自他共に認めるところがある。
 二空輪は先頭部隊の指揮官にトンネル上の敵を任せ、自分たちは西側の住宅街にいる敵を排除すると告げると、早速行動を開始した。
 西側はこの場合、地理的に山側ということになる。イコール、自分たちより高い位置から攻撃を加えてきている敵と相手をすることになる。
 
 昔から、それこそ五百年前の足軽が弓矢を使って戦をしてきた時代からそうだが、頭上からの攻撃を与えられると攻めにくく、矢弾を受けやすいとされている。
 二空輪はそれを承知で、自ら難易度の高い敵を攻撃するつもりであった。
 若い隊員に早く戦い慣れしてほしいという気もあった。そのことで、二空輪に従う妖狐隊員から不平が出ることはなかった。好きで、二空輪に従っているのだ。
「前ェェい進めッッ」
 
 二空輪は声高らかに、住宅街へ進んでいく。
 何を隠すでもない。人間として参加した戦争で与えられた階級で、最終的には曹長として一隊を率いた時期もあった。これは、士官学校を出ていない、二等兵から始めた者が昇進できる一番最上位の位(くらい)である。二空輪は日本陸軍の下士官として、多くの作戦を成功させてきた実績があった。
 住宅街の細い路地に入ると、先ほどまでの銃撃はぴたりと止んでいた。息を潜め、待ち構えているのだ。
 そういう気配がある。それは殺気であった。狐の直感が、野生のカンがこちらには備わっている。
 

拳銃女王 act6 アトミックシティ 前篇 ② - bebe

2014/11/23 (Sun) 13:09:20

 
「むっ……」
 二空輪は一軒の家に目星をつけた。二階建ての、茶色の屋根をした小ぢんまりな民家だ。
 この家から、自分たちを狙う者たちの殺気を感じた。
(素人だな)
 二空輪のようなベテランの前で、みなぎるほどの殺気を放つのは厳禁だ。
 
 向かい合っていればいいが、隠れてから襲いかかるならば、心を平静に保たなければならないのに。
 家の裏口から入ろうと民家の庭にまわった二空輪の足元で土が爆ぜた。
 おいでなすった。
 近づいてくる隊員たちに向けて、最後までこらえきれずに、敵が銃撃してきたのだ。
 
 何の部屋かは不明だが、路地に面した二階部屋の窓に黒い姿がサブマシンガンを構えてこちらに撃ってきている。
 武装警察官だ。
「散れ!」
 二空輪は隊員たちに命じて銃撃から逃した。
 
 二空輪は戦闘員の標準装備である、自衛隊から接収した八九式小銃ではなく、ホルスターにあった巨大なリボルバーを取り出し民家の塀に隠れた。
 トーラス・レイジングブル。454スカール弾を使用する、マグナムより威力の高い銃だ。
 塀の陰から少しだけ頭を出し家を見る。銃弾が襲ってくる。すぐ頭を引っ込めた。
 二空輪の反対側にしゃがみ込んでいた隊員が、突入の合図を下さいと手信号で示してくるが、二空輪は首を振った。
 
 銃撃が落ち着いたところに、いきなり二空輪は身を塀と塀の間に躍り出た。
 弾切れで再装てんしていた武装警察官は慌てて弾を込めようとするところに、トーラスを撃つ。
 
 ズンッ
 ズンッ
 
 大砲のような巨砲でしかあり得ない、大気の震えが場に二回生じた。
 撃った弾丸は何と家の外壁を大きくえぐり取り、そのまま武装警察官の腹に巨大な穴を開けたのであった。そいつが手にしていたサブマシンガンにも弾が当たり、爆裂して原型を留めていなかった。
 完全に崩壊した外壁から、武装警察官がゆっくりと傾いてくる。そのまま庭に落ちた。
「他にもいる、油断すまいぞ」
 
 二空輪は撃った分の弾を込め直しつつ、命令をしてさらに隊員たちと住宅街を前進しだした。
 武装警察官は通常よりも分厚い防弾装備を着こんでおり、豆鉄砲ぐらいでは簡単に弾いてしまう。
 弾幕を集中して叩きこむか、今みたいにより強力な武器で攻撃するかしか手立ては無い。
 二空輪は後者のやり方を執っていた。
 
 また民家から銃撃だ。
 今度の家は珍しくレンガ造りの様式であったため、いかに二空輪の拳銃が強力でも、あれはかなりの数を撃ちこまなければ壊れないだろう。しかも今度はひとりがこもっているのではなく、何人かいるようだった。激しい攻撃が二空輪の隊を襲う。
 隊員たちは小銃で応戦するが、中々決定打には到らない。
「二空輪さん、自分がこれを撃ちます」
 
 隊員のひとりが、背嚢(※はいのう。背にしょう荷物入れ)の中からごっそりと大きな銃を取り出し、二空輪に見せた。
 グレネードランチャーだ。型はベトナム戦争時に使われたものであったが、用は十分に足りる。
「よし、お見舞いしてやれ」
「はい、援護を願います!」
 
 隊員が意気込んでグレネードを手にしたのを見届けると、二空輪とその他の隊員は一斉に援護射撃を遮蔽物から開始した。
 柵を差し込まれた、低いコンクリートの壁が身を守る盾で、二空輪たちは半腰の姿勢で撃っている。
 まだ撃ち返してくる武装警察官はいたが、こちらからの猛烈な弾丸を受け、何人かは沈黙しているようだった。
「今だ、やれーっ!」
 
 二空輪が声を上げ命ずる。
 隊員はレンガ壁に向けてグレネードランチャーを発射した。
 炸裂弾は、短い距離も甲を奏し、壁に命中してかなりの量のレンガを壊したが、壊れかけの壁はまだその機能を十分に残していた。
 二発目を撃とうと、弾込めをするつもりでその隊員が伏せようとした際に反撃をもらって倒れた。
 
 わき腹に小口径弾が命中し、致命傷ではなさそうだが、グレネードランチャーと炸裂弾を落とす。
「くそう」
 二空輪はトーラスを片手に、落ちたグレネードと弾を回収した。
 中折れ式の、一世代前のグレネードランチャーだが、勝手は分かる。
 
 弾を入れ、再び援護を始めた若い隊員たちの合図を待つ。
「今です!」
「さあ」
 合図が来た。
 
 二空輪は思い切り、屈めていた身を持ちあげて、一発目が命中した箇所へグレネードを発射した。
 はたして、短い爆発と共に、今度は完全に家の壁は倒壊したのである。
 爆破の衝撃と破片で、武装警察官も四名巻き添えにできたようであった。
「突撃にーィィ前えーィィっ!」
 
 二空輪は再びトーラスを握り、民家へと先陣を切って突撃した。
 バラバラとなった家の家財を踏み、奥へ逃げようとする武装警察官を三名発見すると、有無を言わさず背後から撃つ。
 隊員たちも、腕を負傷して床に伏していた敵を二名その場で撃った。
 しかし、まだ中にはひとりかふたりいてもおかしくなかった。
 
「貴様ら、この場所を確保して待機してろ。家の中は狭めえからよ、俺がひとりで片付けるぜ」
「了解です。お気を付け下さい」
 隊員たちは素直に返事をすると、二空輪はゆっくりとここ、リビングらしい場所から廊下へと出る。
 確かにまだ、いる。
 
 息を必死で押し殺そうとしているが、仲間以外の不審な呼吸音が狐耳に聞こえてくるのだ。
 一階を捜索する。蓋をした風呂にトイレの中。人ひとりがやっと入りこめそうなタンスの中も調べるが、いない。
 二空輪は二階へ続く階段に意識を集中させた。いるとするなら残りはこちらだ。
 一歩ずつ、慎重に、いつでも撃てる緊張を保ちながら階段を登る。
 
 二階の構成は洋間がふたつあるだけであった。
 そんなに大きくない家だ。
 二空輪はまずひとつめの部屋に入るが、窓と小さなタンス、いつの頃からそこにあるのか、敷かれた布団がひと組あるだけの小ざっぱりとした部屋だったので、ここは無視することにした。
 もう片方の部屋は割と広い。勉強机があり、二段式のベッドがある。人の隠れられそうな引き戸―たぶん倉庫として使用していた―がベッドの枕がある頭側にある。
 
 色の薄いシンプルな部屋で、多分、この家に住んでいた子供が使っていたのだろう。
 二空輪は二段ベッドに近づいた。その下は人が潜むのに余裕があるスペースがあった。
 そこに一発ぶちこんだ。
 反応も返り血も出ない。残るは引き戸の方だ。
 
「出てこいよ」
 二空輪は呼びかけた。気持ち、戸が動いたような気がする。やはりここに隠れていたのだ。
「末期の飯ぐらい、食わしてやってもいいぜぇ? へっへへへへ」
 完全に悪役になり切っていて、そういった台詞がつい出てしまう。
 
「俺の持っているのはマグナムより強ぇ銃だ。そんな薄い扉、アッと言う間にぶち裂いちまう……」
 なおも降伏を呼び掛けつつ、一定の距離で近づかない。さらに戸からして死角に二空輪は立っているため、弾が当たる心配はまずないだろう。
 きぃ……
 
 低い音を立てて、戸が内側から開こうとしていた。二空輪、トーラスを力を込め過ぎずに構える。
「グワー!」
 いきなりであった。
 二段ベッドの下の段、布団を乗せる基礎の板が突然跳ね跳び、雄たけびを上げながら武装警察官が出てきた。
 
 撃って確認したつもりが、弾は隠れていた者に命中しなかったのだ。
 何たる不覚を!?
 撃って出来た穴を、よく覗いて確かめればよかった。
 続けざまに、二発、三発と撃っていれば、命中して絶命させていたのかもしれない。
 
 時すでに遅しである。
 咄嗟に銃口を向けようとする二空輪より疾(はや)い。
 死ぬ!
 The endであった。
 
 銃声が鳴り響いた。
 相手のサブマシンガンではなく、拳銃の発砲音だ。
 瞼をつむってしまい、その直後開いた二空輪の目が、引き戸の方へ向く。
 戸の隙間から突き出た短そうな銃口から硝煙が揺らいでいた。
 
 撃たれた武装警察官は腕と腹を抑えて唸っている。
「すまないねえ。けど、やっと起きれたわ」
 引き戸が勢いよく開いた。まず出てきたのは、細いが無駄な肉の無いといった女の足である。
 何故女であると分かるかと言うと、その足の先に履いてあるのが女物のパンプスであったからだ。
 
 二空輪はこの声のイントネーションに聞き覚えがあった。誰が出てくるかはすぐに分かった。
「ごめん。この家に来てから、今までずっと寝ていたよ」
 やはり想像した通り、赤毛の女が出てきた。
 女の方も二空輪を見て、驚いたようだった。
 
「に、くうりん……さんだよね?」
「お前は国後雨子だろう。どうだ?」
 女に向けて二空輪は言って、口は狐面で覆われているため、目元にそうと分かるまでに笑いをみせた。
 雨子も問われてゆったりと頷いた。
 
「どうしてここにいるかはさておき、命を助けられたな」
「死にかけの老人の命を拾ってやったのさ」
 よく言う。
 ボスの花見真司美幸と同い年の、二三歳の小娘のくせして。
 
 だが。
―しかし。
 助けられたことには感謝するが、やはり、という言葉を口には出さなかったが、心の中で呟いた。
 一瞥すると武装警察官を殺したつもりであったが、弾は急所を『わざと外している』
 
 これはこれで名人芸である。銃で撃たれれば、大抵致命傷になりうる。
 反対に、人体の急所でないところに当てるのが難しい。
 手にした銃の口径と、雨子の腕があればこそ成し得るプロの射撃であった。
「あっ、こいつ、まだ生きてるよ。やだね~死ぬ時ぐらいさっさとくたばっちまいなってんだ!」
 
 口でそう言いながら雨子は武装警察官を見下したような態度をとる。
 それは本心でありながら、本心ではない―
 二空輪は感謝しつつも、雨子という人間を分析し、どういう女であるかを見極めていた。
 
 
 

あとがき - bebe

2014/11/23 (Sun) 13:15:59

こつこつこつ…空いた時間に筆を取りつつ仕上げました。早くも前後篇(中編まで入るかもしれません)の話です。bebeです、こんにちは。
書きだめした分のストックが、実はかなりあったりします。
尾上与一先生という方が書くBLが面白くて、そのキャラが(勝手に)出てきたりする編を進めています。個人的にはノーベル文学賞を与えてあげたいぐらいの読後感。うん、200冊ぐらい読みましたが、あれほどのものに出会えて運が良かったです。その前置きで、ちょっとジェット機を登場させてみましたが、BL駄目でしょうか? そういう描写は無くして出しますので、ちょこっと『ウゼェ』『きもい』だけでもくれればそれだけで喜んだりします(マゾだww

お久しぶりです - いけやん

2014/12/08 (Mon) 23:44:48

お久しぶりです!
久々にbebeワールドを堪能させていただきました。
兵器のこととか歴史とか、よく研究されていますね。私も見習わなくては。
ご自分のペースでゆっくりやってくださいませ~。

Re: 拳銃女王 act6 アトミックシティ 前篇 ① - bebe

2014/12/12 (Fri) 11:46:49

いけやん様。こちらでは久しぶりです^^
調べれば調べるほど深みを増していきます。最近では「艦コレ」なるものが流行っているようですが。どちらかというとリアル路線なのですよね~。ご感想ありがとうございます。

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